悪魔との取り引き

目の前に悪魔が現れた。

ちぇっ、ちがう。正確な言い方じゃないな。

目の前にいる黒い背広の男は、
悪魔ですと自己紹介した。
本当に悪魔かどうかは、わからない。

背広の男は、ニヤニヤと笑っている。
「何かひとつ、願い事を叶えてあげましょう」
そんなことを言い出したんだ。

いらないよ、そんなの。
願い事を叶えるかわりに、
俺の魂を持っていくんだろう。
本で読んだことあるぞ、そういうお話を。

どう考えても損な取引だ。
大金? 永遠の命? いや、永遠の若さか?
魂と交換したら、永遠の若さが手に入る?
まさかね。そもそも、こいつが本当に
悪魔なのかどうか、それが疑わしい。

「願いは何ですか?」背広の男は、
まだニヤニヤしている。癇に障る笑いだ。
腹立ちのあまり、俺はつい
「帰れ」と言ってしまった。
「帰れ? それがあなたの願いですか?」
「ああ違う違う。そういう意味じゃない。
帰るついでに俺の魂を持っていくな」

なんかこう、イライラする奴だ。
悪魔だか何だか知らないが、
こいつを困らせてやりたい、
こいつを懲らしめてやりたい……。

「願い事が決まったよ」
「ほう、お聞きいたしましょう」
「ここに、神を呼べ」
「はあ?」
「天使でもいいぞ」
「それはちょっと……」
「どうした? 悪魔が存在するなら、
神だっているんだろ? 呼べよ」

こいつを懲らしめることができるのは
神だろう、そういう軽い気持ちだった。
まさか悪魔も、神を呼んでおいて
「ではあなたの魂を下さい」とは言えないだろう。
神だって、それはとめるだろうし。



そんなことを考えていたら、
目の前に神が現れたよ。
それだけじゃない。
神と悪魔がケンカをはじめたんだ。
すごかったぜ、神と悪魔の争い。
まさに神話の世界。黙示録とでも言えばいいのかな?

あ、おい。信じてないな。
こら、どこ行くんだ、おい……。