雑談:ミステリーの話題

 有栖川有栖さんの短編ミステリー「赤い帽子」の中に、
刑事達の生活を描写するこんなシーンがあります。

「では、本日はこれまでにします。お疲れさまでし
た」
 一課長が会議の終了を告げた。日付が変わってい
るのだから、本日という表現は不正確だ、と森下は
つまらないことを思っていたが、あることを思い出
して「あ」と声を上げた。
「どうした?」と鮫山が訊く。
 今日は道場で雑魚寝になるだろうに、着替えを取
ってくるのを忘れていたのだ。鮫山はにやりと笑っ
て、彼のスーツを見る。
「大したもんや。アルマーニの寝巻とは」

 刑事達は深夜、家に帰れない場合は
警察署内の道場で雑魚寝するのだそうです。
 私はこの部分を読んだとき「署内に
宿泊施設はないのだろうか」と疑問を持ちました。


 ところがです。今から三ヶ月以上前のこと。

 私は電車に乗っていて、おじさんが若い女性を
触っている現場に出くわしたんです。
 女性が「痴漢です」とはっきり声に出したので
おじさんに電車から降りてもらいました。

 その時は「駅員さんに引き渡せば
いいのだろう」と考えていたのですが。もちろん
そんなはずはありません、若い女性と、おじさん、
そして私はそれぞれ別の車に乗って
警察署まで行くことになりました。

 私は、狭くて窓のない部屋(というより、
壁で囲まれただけのスペース)で刑事さんと
一対一で色々と話し、供述調書が作られました。
 そして、電車内の様子を再現して
写真を撮るため広い場所へ移動する、
ということで署内の道場へ連れて行かれたんです。

 そこで見たのが、道場の片隅に
積まれている柔道用らしき畳と、
その上に丸めて乗っけられている布団でした。

 見て、ハッとしました。
「まさか、本当に道場で寝たりしてるのか」という
驚き。

 事情聴取が一通り終わってから、刑事さんに
「何かあったら、裁判で証言してもらうかもしれない」と
言われていたのですが、それきり連絡はありません。
 きっと、私の言葉はもう必要なかったのでしょう。