特別料理

 この椅子は本当に素晴らしいね。
 いつも君の所へ来ると、くつろぎすぎてしまう。
 そんなのは、僕だけか。時間の余裕はあるかい?
 次の予約は? 今日はゆっくり話したいんだ。


 うん、やっと立ち直ることができたよ。
 妻を亡くした直後は、どうしようもなかった。
 でも、今は大丈夫さ。健康を取り戻した。
 しっかり食べているからね。
 最近は、羊の料理に凝ってる。
 特別なソースを用意した、特別料理さ。

 あらゆる部位を料理にするんだ。うまいぜ。
 肉、皮、内臓や目玉も。まさに特別料理さ。
 それに、ソースが素晴らしい味だったんだ。

 食べることで元気になろうと思った。
 だから、残さず食べたよ。歯は丈夫だからね。
 君も知っての通りさ。
 でも、一人で味わうのは寂しくてたまらない。

 ……こうしていても、妻を思い出す。
 本当に素敵な女性だった。
 いつも一緒にいたい、そう願ったものさ。
 食べてしまいたいくらい、可愛い女性だった。


 甘いものが大好きで、やめられなかった妻。
 いつも体型や虫歯を気にしていた。
 君も知っての通りさ。
 でも、少し太めのところが可愛かったんだよ。
 ああ、彼女をそばに感じていたい。
 彼女とひとつになりたい。
 ……そこで、友人の君に頼みがあるんだ。


 ちょっと見てくれ。
 これは、火葬場で見つけたんだ。
 彼女の骨の中から。
 セラミック製の差し歯だよ。

 信じられないくらいきれいだろ。
 これを、僕の口の中に移植したいんだ。
 彼女の歯を、僕の中に。
 それで、僕は一体感を得られるんだ。
 一緒に料理を味わえるし。

 素敵なアイデアだと思うだろ?
 でも、こんなこと君にしか頼めない。
 君の腕を見込んでのお願いなんだ。
 次の予約もあるんだろ?
 患者たちを待たせるわけにはいかない。
 さあ、早く麻酔をかけてくれ……。