思いつきを書き留めておきます

 叙述トリックについてあれこれ考えているうち、
へんなネタを思いつきました。



「どうしたんだい、笑ったりして。
僕の顔になにかついてる?」
「ごめんなさい。今のあなたは髪もヒゲも
真っ白だから、サンタクロースみたいだなと思って」
「なるほど、サンタクロースか。
……メリークリスマス」
「メリークリスマス」
「それじゃあ、子供たちに
プレゼントを配りに行こうかな」
 夫は、杖を握りしめた手に力を入れて
立ち上がろうとした。けれど、
バランスを崩して大げさに尻餅をついた。
 私は、また笑ってしまった。夫も笑った。

 夫が、笑顔のまま私をまっすぐに見つめた。
「今まで、ありがとう。感謝してる」
「私もよ。あなたと出会えて、
素敵な人生だったわ」



 私は、夜空を見上げた。
 そこには、なにも見えなかった。
 ただ、強風が舞う、灰色の冬空だった。
 私は、地面を見た。
 彼方まで続く冷たい世界、氷の斜面だった。

 暗い雪山に、私たち二人きり。
 

 そして、隣の夫を見た。
 髪もヒゲも凍って真っ白な夫は、
杖を握りしめたまま動かなくなっていた。

 太い、登山用の杖を握りしめて
うつむいた夫の姿は、十字架にすがりついて
祈りをささげる聖職者のようだった。