ゴールドカード

 昔の同級生に頭を下げるなんて、やりたくなかったんだ。
だけど、仕方がなかった。だから、小田に頼んだんだ。
『金を借してくれ』って。
 あいつは、俺を連れてコンビニのATMへ行った。
機械を操作して二万円を引き落とすと、
それをそのまま俺に渡したんだ。 二万円だぜ、二万円。
 あいつは金持ちらしいから、
すぐに返さなくても大丈夫と思ってた。

 は? 最初から返すつもりはなかった? ふざけるなよこら。
いつかはちゃんとカタをつけようと考えてたさ。
 だけどな。あいつ、しつこかったんだ。顔を会わせるたび
『早く返せよ』って。同じ町内に住んでるから、
どうしたって避けられなかった。あいつにとっては、
二万円なんて忘れたっていいくらいの金額だろうに。
あいつ、金持ちなんだぜ。財布を見たんだ。
ゴールドのクレジットカードが入ってたのを今でも憶えてる。

 きのうは……日曜か。きのうのことだから、忘れてないよ。
駅へ行く途中の道で、あいつに会ったんだ。おどされたよ。
『どこかで遊ぶ予定か? だったら、
まず俺から借りてた金を返せ』って。
 しかたねえから、返したよ。二万。遊ぶ金がなくなったから、
アパートへ戻って寝ることにしたんだ。
 小田が死んだなんて、今でも信じられないよ。
 あぁ? 俺はなにもしてないぞ。
 あいつに手を出す理由もない。
 借金なら返したんだ……


 先生は、とても優秀な弁護士だそうで。
 その若さで。大したものです。
 ただ、先生でも杉吉を救うのは無理でしょう。
小田が死んだのは、彼のせいです。
 詳しい話ですか? 私のつたない説明で通じますでしょうか。
 小田は、駅のホームで突然倒れたんです。
彼は、『あの野郎』とブツブツ呟いていたそうです。
それが急に、頭を抱えてしゃがみこんだ。
周囲の人達が見ていると、
そのまま泡を吹いてひっくり返ってしまった。
 その場にいた人はみんな、彼に近付くことも
できなかったと言ってます。駅員に連絡し、
携帯電話で救急車を呼ぶのが精一杯だったと。
 ええ、防犯カメラが撮影していた映像と目撃者の証言は、
完全に一致します。

  時々あることなのです。頭をうった人が、
しばらくたってから倒れてしまうのは。
小田は、少し痛む程度なら、急ぐ必要はないと考えたのでしょう。
電車で病院へ行こうとしていたのかもしれません。
 でも、それは大きな間違いでした。
すぐに病院へ連絡するべきだったんです。
 頭の怪我というのは、杉吉に小突かれるかしたのでしょう。
杉吉は否定しています。金を返した以上、
小田との確執はなにもないと言い張るんです。
……少し調べれば、すぐ嘘だとわかるのに。
 なぜ彼の嘘がばれたか、想像できますでしょうか?

 なにがあったのか、だいたいわかりますよ。
 杉吉は駅へ行く途中で小田に会ってしまい、
借金のことで責められて手を出してしまった。
 それをごまかすために、『金なら返した』と嘘をついた。
……情けない出任せですねえ。
 コンビニで金を渡された時のことを考えれば、
気づいてもよさそうなものなのに。

 小田は、現金を持っていなかったのでしょう?

 今は、クレジットカードやポイントカード、
電子マネーとかで用が足りますからねえ。
現金よりもカードで支払ったほうが、
カード会社の特典を得られますし。
 そういえば、小田はゴールドカードを持っていたそうですね。
 現金は持っていなかったから、
杉吉に借金を申し込まれた時、わざわざコンビニのATMで
二万円を引き落としたのでしょう。
 もし、杉吉が借金を返したのなら、
小田の財布の中には二万円入っているはずですよね?
駅のホームで倒れた時に誰かが持っていったわけではないし。

 杉吉は、勘違いしていたんですねえ。
金持ちの財布に金が入ってないなんて、驚いていることでしょう。