( ^ω^)安宿の殺人

 香港のゲストハウス(安宿)で、
イギリス出身の男が殺された。身につけていた
腕時計やアクセサリー、財布がなくなっている。

 当時ゲストハウスにいた四人の旅行者が
警察に拘束されたが、そのうちの一人は
高名な私立探偵( ^ω^)で、すぐに釈放された。
そして、残る三人の旅行者である。
トーマス・ライト、アメリカ出身の白人。
ムハンマド、スイス出身の黒人。
陳舜臣、中国四川省の奥地からやってきた。
三人とも貧しく、アリバイはなかった。

 探偵は、殺人現場のキッチンに立った。
 手癖の悪い旅行者が食材や調味料、食器を
無断で拝借していくらしく、殺風景な場所だ。
銀色の大型冷蔵庫をあけても、空だった。
 木の床には、黒く変色した血痕が残っている。
 もう片づけられたが、チンタオ(青島)ビールの
空き缶も転がっていたらしい。
実は、イギリス人の遺体から
アルコールが検出されている。

 犯人はおそらく、酔いつぶれた
イギリス人から持ち物を盗もうとしたのだ。
しかし、気づかれて争いになり、
刃物を振り回して……。

 宿の主人がやってきて、探偵に声をかけた。
( ´_ゝ`)「休暇中に、申し訳ございません」
( ^ω^)「いや、いいんだ。旅先で事件に遭遇するのは
名探偵の宿命さ。被害者のイギリス人は
失血死だそうだね。彼の魂に安らぎあれ」
( ´_ゝ`)「こちらの電子レンジ、ご覧になりました?」
 被害者は、電子レンジのすぐそばで
倒れていた。そしてその電子レンジには、
ひときわ大量の血がこびりついていた。
 探偵は近づいて観察する。

( ^ω^)「これは、どういうことなんだろう?」
( ´_ゝ`)「被害者が、自分の血でなにか
書き残そうとしたらしいです。電子レンジの
横側に、血で十字架が書いてあります」

 +

 十字架、あるいは数式記号のプラスに見える。
( ´_ゝ`)「赤い十字架ですよ。
スイスの国旗を逆にしたように見えませんか?
スイスの国旗は、赤地に白十字ですよね。
これは、赤白が逆になってます」
( ^ω^)「十字架に見えるのは偶然じゃないかな。
大怪我を負った人が死の直前に
何かを書き残すのは、難しいだろう。ではなぜ、
電子レンジに手を伸ばしたのか……」

   物騒なゲストハウスで起こった事件。
   さて、犯人は誰でしょう?
 しばらく考えていた探偵が叫んだ。
( ^ω^)「さっきあなた、なんと言った?」
( ´_ゝ`)「えっと、赤い十字架で、スイスの国旗を
逆にしたような……」
( ^ω^)「スイスの国旗というのは、赤地に白十字だ」
( ´_ゝ`)「そうですね」
( ^ω^)「じゃあ、これはなんだ。白地に赤十字だ」
( ´_ゝ`)「逆ですよね。それがなにか?」
( ^ω^)「大事なのは、赤い十字架じゃない。
白地の方だ。この電子レンジは白いんだ。
被害者は、白い電子レンジに手を伸ばし、
自分の血をなすりつけた。
……そういえば、容疑者の中に
白人がいるね」

( ´_ゝ`)「白人!?」
( ^ω^)「ひょっとして、被害者は自分を襲った男の
名前を知らなかったんじゃないかな。
 あるいは、文字を書き残すことが
できなかった。手が震えていたとか。
それで、白い物に注目が集まるようにした。
『白に気づいてくれ、犯人は白人だ』と
伝えるために」
( ´_ゝ`)「なぜ、電子レンジだったのでしょう?」
( ^ω^)「ここにある白い物といったら、
電子レンジだけじゃないか。
 ふつう、キッチンには白い物がある。
皿とか。砂糖や塩もそうだね。
だけど、誰かがくすねていったから
ここにはなにもない。冷蔵庫は銀色だし」

 探偵( ^ω^)の推理に基づき、アメリカ出身の
白人を追及したところ、白旗を揚げ
自白した。これにより事件は解決した。

 驚いたことに、宿の主人( ´_ゝ`)はその後も
白々しい顔で営業を続けた。
 このキッチンで殺人事件があったことを
教えられると、ほとんどの宿泊客は
「ここはそんなに危険なのか。
そういう情報はもっと早く知りたかった」と
白目をむいて怒る。
 しかし、東京から来たある男は
白い歯を見せて笑った。
「そういえば、イギリスで家電製品は
『White Goods』と呼ぶらしいですね。
日本にも、似た表現があります」
 その男は、観光ガイドの余白に
四つの漢字を書いてみせた。

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