墓地の片隅で

 広大な墓地の、北の片隅。
 日が落ちてしまうと、薄い闇に包まれる。
周囲にあるのは、無表情な石の塊だけ。
 私は、案内人に尋ねた。「ここですか?」
「はい、ここです。最近、ローカル新聞が
この場所について記事を載せたらしくて、
野次馬が騒がしいですよ」
 私は笑ってしまった。「騒がしいどころか、
私たち以外は誰もいませんね。夜だからかな。
それで、記事ではどう紹介されてたんですか」
「ストレートに書いてあったようです。
……“幽霊が出る”と」
「それは興味深い。見えるんですかね」
「ええ、半透明ですが」
「もうひとつ質問していいですか。
なぜ、ここなんです?」
「それはこちらにもわかりません。
まあ、理由や理屈を超越したものですから」
「なるほど、でしょうね」
「理由や理屈は関係ありません。ここで目を閉じて、
『戻ろう』と願ってください」

 私は言われた通りにした。しばらくたってから
目を開ける。自分の腕や手を見た。

 半透明になっている。

 うまくいったようだ。
では、私を裏切った恋人の家へ行こう。
他界したはずの私を見て、どんな顔をするか楽しみだ。