ミステリー板の拾い物

「ミステリーに使えそうなネタを考えるスレ」から
(一部を加工)


12 :名無しのオプ:2011/09/16(金) 14:07:55.87 id:X2QZu1St

毒殺について考えていて、思いついたネタ。
杉野という男が、知人の北本を殺そうとする。
毒薬が手に入らないだろうか、農薬を
飲ませることはできないだろうかと考えていて、
ある方法にたどりつく。そして、冬の夜、
北本のアパートで計画を実行する……。

推理小説には毒殺が沢山出てくるけれど、ほとんど無意味なんだ」
「無意味とはどういうことだ」「飲んだら死ぬほどの毒なんて、
そもそも体が受けつけない」「……あ」「まず飲むことができないし、
飲めないように作られている場合もある」「飲めないように?」
「例えば、農薬さ。除草剤は草を枯らすほどだから、
体内に入ると大変なことになる。だから、飲めないようにしてあるらしい」
「そういえばそうだな。とてもまずかった」
「あはは。飲んでみたことあるのかよ、お前」「俺はやっぱりこの酒がいい」

 そろそろ、北本に説明してもいいだろう。
「だいたい、人を殺したいなら毒なんていらないんだ」
「いらない?」「そう、カゼ薬とアルコールで充分。
酒にカゼ薬を混ぜたら、なにをされても起きないほど熟睡してしまう。
わかるよな、北本。もう、目を開けていられないだろ?」

 寝転がっていた北本の体が、怒りで震えだした。
「杉野。きさま……」しかし、声は小さい。もう叫ぶことすらできないらしい。
「うん。実はな、お前のことが憎かったんだよ。殺したいくらい」俺は立ち上がった。
こうして北本を見下ろしているだけで、笑いがこみあげてくる。
「俺はそろそろ帰るぜ。ついでに、このストーブを倒しておいてやるよ。
熱かったら、起きて自分で消してくれ。じゃあな、北本」

 翌日、火事のニュースが新聞に載っていた。カゼをひいた男が、
薬とアルコールを一緒に飲んで熟睡してしまったあげくの失火……だそうである。
俺が期待したとおりの展開だ。不幸な事故として処理されたのだから、
俺が疑われることはない。だが、もし北本が最後の力をふりしぼって、
俺のやったことをどこかに書き残していたら? そんなものは燃えてしまうはずだから、
心配ない。念のため、彼の携帯電話はアパートから持ってきていた。
どこにも連絡できず、もがきながら燃えていく北本の姿を想像してみる……
いや、眠りに落ちたまま死んでいっただろうから、苦しんではいないはず。
しかし、それはどうでもいい。

 大事なのは、俺が疑われないこと。あれは殺人などではないんだ。
ストーブが倒れてしまっただけの、事故なんだ。

 火事の数日後、警察に呼ばれた。北本の死について、報告したいことがあるらしい。
 薄暗い部屋で、貧相な男が報告書らしい紙の束を手にしていた。
「お忙しいでしょうから、手短に説明しましょう。慎重な検死の結果、
とんでもないことがわかったんです。北本さんの体内から、
アルコールとカゼ薬の成分と、農薬が検出されたんです」

 意味が理解できず、体が震えた。農薬だと?
 貧相な男は一人で喋り続ける。「多分、こういうことですな。
誰かが、北本さんにカゼ薬と酒を飲ませた。
すると北本さんは熟睡してしまう。そこで、彼の口の中に農薬をそそぎこむ」
 嘘だ。こいつの言葉は嘘だ。農薬なんか飲ませた覚えはない。

「農薬は危険ですからね。誤って嚥下することがないよう、
口に含むこともできないくらいの苦味を加えてあるはずなんです。
ところが北本さんは、前後不覚に陥っていた」
 だから、農薬ってなんだよ。
「農薬を飲み下してしまったうえ、とどめが火事です。
ストーブを倒すことで、すべてが燃えてしまった」

 だから、農薬って誰が用意したんだよ。


 ……あ、北本か! 北本が農薬を用意したのか。

 それはきっと、俺に飲ませるため。北本は俺を殺そうとしていたんだ。
俺が酔いつぶれたら、農薬を飲ませるつもりだったんだ。
俺が寝てしまうのを待っていたんだろう。

 だが、俺がカゼ薬入りの酒で先手をとった。
倒れたストーブをどうすることもできないうえ、
携帯電話は見当たらない。助けを呼ぶこともできない絶望的な状況の中で、
あいつはなにをしたか。俺の計画をぶち壊すために、農薬を飲んだんだ。

 あの場に農薬さえなければ、事故として処理される可能性が高かったのに。
だけど、このことを説明しても、誰も信じてくれないだろう。
 二人の男が、カゼ薬と農薬で殺し合いだなんて!

 急に、鋭い視線を感じた。「杉野さん、今、笑いましたね」